恋文

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 ふっ。酒か。一人で酒を飲むと昔を回想してしまうな…。  具体的には一週間前、自宅で一人。私は壁に向かって税込み600円程のウイスキーを水割りで飲んでいた。そう、時間にして三時間程であった。ふと空腹を感じて外出したのが間違えだった。  事件は起こった。  私は気付けばガールズバーなる所で、ウイスキーの水割りを飲んで居たのである。独り身である私は仕事以外で女性と会話する機会は殆ど無い為、つい浮かれてしまったのだろう…気付けば三時間程経過して居た。  おかしなもので、自宅に居た三時間とガールズバーに居た三時間とでは時間の経過が違うものだった。楽しい時間程過ぎるのが速いと良く云ったものだが、私はこの時間の中で頭脳の回転数が関係しているのではなかろうか?と思ったものだ。つまり、相対性理論と何らかの関係があるのではないかと思ったのだった。  それについて追求するのが今後の自分の課題、いや、使命なのかも知れぬ。と熱り立った物だが、そんな向上心は三時間経過後に聞いた一つの声により霧散した。  「16000円になります」  16000円。この価値観については人それぞれだろう。高いと思う人も居れば安いと思う人もいる。  私はどう思ったのか…?  この額は私の収入の十分の一に値するとだけ云っておこう。  かなり酔っているのか、懐が寂しくなっている為なのか、私は千鳥足で(無理矢理の千鳥足だった事を認めよう。それは哀しみのワルツだった)家に帰り、うつ伏せにベッドへ倒れ込んだのであった。  この時の経済的哀しみにより、翌日私は酒など二度と飲むものかっ!と嘯いていたものだが、人生とは奇妙なものだな…。またこうして酒を飲む事になるとは…。  しかし私もこれからは嗜みを持って生きようと思う。嗜みを持って飲もうと思う。  そうだ、嗜みについて瀬戸雨に教えてやろう。人生の先輩として当然の振る舞いであると云えよう。  「…何してる…?」  背後で不意に声が聞こえた。私はどきっとして、何か自分がやましい事をしていないか考えたが身に覚えがない事に至り、やれやれ無意味にどきっとしてしまった。とはにかみながら瀬戸雨の方へ振り返る。  「起きたようだな、瀬戸雨。扉が開いていたぞ。不用心だ。気を付けたまえ」  「…それ、わたしのなんだけど…」  彼女はゆっくりとジャックダニエルを指差した。  
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