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例の写真集は買ったものではない。頼みもしないのにプレゼントされたものだ。そんなんで彼女からほっぺを張り飛ばされたら、悲劇じゃないか。泣くに泣けない。
ではなんで古本屋に売るとかして処分しないのか? したくてもできない訳がある。
これは幼馴染の恵美瑠も知らないことだが、俺には腹違いの姉貴がいるんだ。
親父がバツイチで、その前妻との子供なんだが、その姉貴こそがアナグマンの悪役のレディ・イローゼを演じている桜坂環希(さくらざかたまき)だよ、とほほほ。
え? 自慢になるって? なんるかそんなもん! 想像してほしい、自分の姉貴がバケモノを演じてるなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えるもんじゃない。なんせ黒い骸骨のビキニ姿で鞭を振り回しているんだぜ。
これじゃSMの女王様だよ、俺にも爽やかなスポーツマンという世間でのイメージがある。やっぱり身内というのは隠して起きたい。
もちろん映画に行くのはチケットを義理買いしているのだ。こっそりと姉貴の劇団の演劇も義理買いしている。
出費がバカにならないけど、身内としては悩ましいどころだ。
でも《恥ずかしいから、やめてくれ!》とは言えない。
おっかない姉貴なのだ。
おまけに大酒飲みで人非人。
劇団の運営費が乏しいからと、腹違いの弟がバイトした金を情け容赦なく奪うような真似までするんだから鬼だ、鬼。
彼女は心配してるようだが、間違っても、あんなのに惚れない。
さて、どうすりゃいい?
正直に事情を話せばいいのか? それとも、なんとかごまかして、その場を取り繕えばいいのか、考えあぐねてたら、なにを思ったか彼女が押入れを開けた。
「おぁ!」
思わず、驚愕の声が漏れた。
慌てて、平静を装ったが、徒労に終わった。
おれの三文芝居を無視して、彼女は押入れの中身をサーチして、なんということだろう、例のプラモの箱に目を止めたじゃないか。
なんでわかる!
そう思ったら、なんと、こっちの視線をそれとなく観察してるじゃないか、純粋無垢な俺は不安にかられ、うっかりプラモの箱をチラ見していたようだ。
もう駄目だ! 女の勘は恐ろしい。
へんに突っ張ると、ますます事態を悪くする。
俺はすぐさま、真実を伝えようと決心を固めた。
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