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タクミは、秋の空が好きだ。
冬の訪れを予期して、うすい雲がひんやりと張りつく十月の終わり頃の空は、特に気に入っている。
B「しおり……おまえさぁ、好きなヤツとか、いるのか?」
A「んー? やだなにそれ、いきなりどうしたのよ」
B「別に。聞いてみただけ」
A「気になる?」
B「そういうわけじゃ、ねーけど」
A「……いるよ。好きな人」
B「へえ。俺の知ってるヤツ……とか?」
A「どうだろうねー、タクミには教えてあーげない」
B「ふーん……」
しおりは持っていたリードを軽く引っ張ると、タクミに聞こえそうで、それでいて聞こえないくらいの声で小さくつぶやく。
A「ほんと、鈍いよねー……ハチ?」
羽をふるわせる鳩を追いかけて、ハチがワンワンと鳴いた。
秋風に吹かれた色鮮やかな紅葉がひらひらと舞い散る中、笑いながら走るしおりの背中を、タクミは瞬きもせずに見つめ続けた。
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