赤と青の瞬間~超・妄想コンテスト参加作品

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 タクミは、秋の空が好きだ。  冬の訪れを予期して、うすい雲がひんやりと張りつく十月の終わり頃の空は、特に気に入っている。 B「しおり……おまえさぁ、好きなヤツとか、いるのか?」 A「んー? やだなにそれ、いきなりどうしたのよ」 B「別に。聞いてみただけ」 A「気になる?」 B「そういうわけじゃ、ねーけど」 A「……いるよ。好きな人」 B「へえ。俺の知ってるヤツ……とか?」 A「どうだろうねー、タクミには教えてあーげない」 B「ふーん……」  しおりは持っていたリードを軽く引っ張ると、タクミに聞こえそうで、それでいて聞こえないくらいの声で小さくつぶやく。 A「ほんと、鈍いよねー……ハチ?」  羽をふるわせる鳩を追いかけて、ハチがワンワンと鳴いた。  秋風に吹かれた色鮮やかな紅葉がひらひらと舞い散る中、笑いながら走るしおりの背中を、タクミは瞬きもせずに見つめ続けた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加