第1章

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「あと何年くらいかかるかな」  一年目は俺の生活スタイルの変化に戸惑い、とにかく大学生時代との違いに慣れることから始めた。  二年目でベランダ進出。  三年目にはベランダを満喫できるようになった。  そして今年、瑠璃はこの手狭な家でどう過ごしてくれるのだろう。  四月に目標を尋ねたときは、婚姻届云々の最終目標はさておき、ゴミを指定の位置に持っていけるようになりたい、と言っていた。冬にさしかかった現在、まだ達成されていない。  どうしても玄関のドアの向こう側に足を踏み出すと、めまいや吐き気がして立っていられないらしい。  倒れて頭でも打たれてしまえば、もうてんやわんやだろう。けれど「挑戦するな」なんて言えない。  俺は幾度となくくり返す。ずっと楽しみに待っているから急がなくていいよ、と。  それが正しい言葉なのかどうかはわからない。けれど、ほっとしたような顔をするから、つい言ってしまう。
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