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目を開けると、さっきまで少し距離のあった天野さんの顔がすぐ傍にある。
優しい石鹸の香りが鼻を通り抜け、心臓の鼓動が速くなっていくのがわかった。
僕の唇に、彼女の唇。
これは、キス……なのか?
やがてその感覚は遠ざかり、天野さんの満面の笑みがそこに見える。
思わず指を唇に当て、さっきまでの感覚を思い出そうとした。
「私は普段、男の子と喋る事が殆ど無い。何故なら、男という存在自体が苦手だったから」
天野さんは僕に背を向け、そう語り始める。
確かに僕以外の男子と喋ってるのを、見たことが無い。
そもそも彼女の弱点は、男に触れられないのではなく男自身だったのではないか?
そう考えると、辻褄があう。
だからこそ、わからない。
「何で僕に話しかけてたんですか?」
僕がそう聞くと、彼女が優しい笑みを見せながら振り返った。
「私も、ずっと君が好きだった……。信じて貰えないかもしれないが、それが私の気持ちだ」
夕日が沈みかけた屋上。
静かに吹く風が、僕らの間を通り抜けていく。
夢のような、夢じゃない現実。
僕は嬉しくて、思わずその場で叫んだんだ。
高校二年生、春。
僕にも、やっと春が来たようです。
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