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「貯」
使わずに貯める!
それが彼の信条だった。幾たびの裏切りに遭って人間不信の極みまで追い詰められて出した答えが金だった。
金は裏切らない、金は数字で明確に計れる。人間はそうはいかない。
食事もすべて自ら最も安価に調理し会社にも弁当を持って行く。恋愛は一番費用がかかるのでしない、タイプの女性がいても自己発電で処理する。とにかく金を使う事に罪悪感を覚えるように自分を調教した。
周りから借金の申し出があっても高利でしか貸さない、例え上司や血縁者であっても。
もちろん嫌われ者である。割り勘の飲み会は当然ながら会費制でも参加しない。
会社持ちでもその分の福利厚生費を参加しないから貰えないか?と交渉する始末である。
突然、田舎の母親が倒れたと連絡があった。至急帰郷しなければいけない病状だ。それでも彼は安く帰れる方法を探した挙げ句、普通電車で特急の5倍以上の時間をかけて実家に着いた時にはとっくに母親は息絶えていた。
それでも後悔などは一切しない。
何より金が残るのが第一だった。
自分の体調が悪くても医療費が惜しくて病院には行かない。行かないとどんどん悪化して行く。やがて会社で堪えきれなくなり救急車が呼ばれ検査の結果、入院となった。そしてその状況でも金を使うことを拒んで退院した。
日に日に病状は酷くなり彼は貯蓄を残して孤独死した。
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