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「坂」
まだ汗ばむ昼間に私はまたもこの坂道を昇っている。緩やかではあるがだらだらと続くこの道は息が上がりかけた私の喉からさらに水分を奪ってゆく。
小児喘息の名残りで乾燥に弱い私の喉は咳き込みながらヒューヒューと奇妙な音を立てて不快感を全身に与える。
何故にこんな思いをしながらも毎度毎度ここを通るのかと問われると答えは当然のことこの頂点辺りにひっそりと佇む古い屋敷に住む麗人に会う為である。
彼女にお目にかかるにはこんな苦しみなど微塵も障壁にはならない。高鳴る胸の鼓動と呼応してすべての毛穴の代謝が弾み細胞が蘇生して行く感覚にさえ囚われる。
あぁ早く彼女に会いたい。
縁側から差し込む僅かな光に照らされたその体を愛でながらゆっくりとひとつになりたひ。
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