「特別」

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「特別」

「君だけは特別なんだよ。」 ホストで枕営業も全然厭わない彼の口癖だった。一見の客にも簡単に言ったり他のホストの指名客にも言ったりするので揉め事が絶えない。 「指名変更は出来ないのが業界の常識なんだからそれぐらいは乱すなよ!」 店長にキツく注意されても一向に治らない。いや、さらに見境なしになる一方なのだ。 他の店の上客だと知りながらわざと奪いにかかる。そして実現させる快感、それだけに充実を覚える思考回路になってしまったのだ。 人数を競うナンパ師みたいなものだ。 問題さえ起こさなければ最もこの業界向きの人間だろう。 ただ、他所の店の客にあざとく接近し過ぎた。夜道で囲まれ武器の美しい顔を切り刻むように傷だらけにされてしまった。 手術を何回も試みたが深く抉られた跡は手の施しようがなかった。 それでも彼は考え続けた。これでも女性に認めてもらうには?選んでもらうには? この顔では邪魔になるだけなので店はクビになり街をうろついている時だった。 「お兄さん!私と付き合わない?」 風俗かキャバクラとかの呼び込みかと顔を覗き込むように眺めると間違いない醜女だった。しかもかなりの。 そうか!彼は気付いたのだった。 自分はイケメンの時のオーラはあるので女は惹かれるが、なにせこの顔に引いてしまう。 その点、決定的にブサイクだが自己顕示欲の強い女には狙い目なのだ。 ということはこちらからも狙い目なのだ。 イケメンホストに誉められてもそれが営業上のウソだと見抜けるほどブサイクなのだから。 今の自分のように身の丈の合った男に口説かれた方が納得がいくのだ。 彼の狙いは的中し開いた店は天井知らずの大繁盛だった。
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