890人が本棚に入れています
本棚に追加
/3000ページ
「虚業」
誰が何と言おうが不景気は不景気継続中の日本である。特に飲食店にはダメージが大きい。
「どうしてこんなに客が減るかわかる?不景気のせいだけじゃないよ。みんな気付いて来たんだよ。」
長い常連だから言いたい放題はいつもの事だが今日は少しトーンが違った。
「何に気付いたの?」
相槌よりも内容が知りたくてママが聞いた。
「こんなスナックだろうとキャバクラだろうとバーだろうとみんな実体の無い虚業なんだよ。」
「きょぎょう?」
「そう虚業。極端に言えば実体の無い詐欺みたいなもの。」
「はぁ?この商売を私が詐欺でやってるって言ってんの!?」
「詐欺罪ではないけど言葉や色気のやり取りでいくら遣わせるかだからやっぱりそういう毛色は強いだろう。だから風俗業に区分されるんだし。」
反論したかったが本当のことではある。本やドラマで真心を売ってます!みたいにあざとい演出も嫌いだ。所詮、客との駆け引きから信頼関係も生まれたりするんだし。
「それが見抜かれてるから付加価値にならないってこと?」
「そうそう。愚痴って真剣に慰めて貰っても料金が発生してる時点で課金制のテレフォンなんとかみたいなものだよ。それならいっそのこと最初から枕営業アリって言ってる方が金も注ぎ込むだろうよ。」
「それは聞き捨てならないわよ!そんな世間も知らないキャバ嬢や素人の援交と一緒にしないでよ!」
「じゃあさ、どこが一緒じゃないの?」
「はぁ???」
「だって客はそれぞれで話しや悩みも多様化してるんだよ。満足させる為に知識とかちゃんと増やしてる?頭の回転良くなるように心掛けてる?」
うっ!そう言われると経験値以外は進歩していないわね...。
「例えばさぁ、あなたが会社が危なくて少しでも気を紛らわしたいって立場のサラリーマンなら、そういう時にこの店に来る?」
来ないわね。
最初のコメントを投稿しよう!