「修羅」

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「修羅」

「君は物事の判別が一切出来てない!人間として成り立っていないんだ。」 アルバイト先の一応上司の先輩フリーターはこんなことを言って簡単に新入りの人格否定の台詞を吐く。 「今にあのバカ誰かに刺されるな。」 他の先輩達は陰でそう言って笑っている。そして自分達が指導しなければいけないことも彼に任せっきりだ。 ファーストフード店では普通マニュアル化が細部まで進んでいるが、ここは弱小チェーンの為に曖昧な部分が多くて旧来の、人が人に教えるという形が残っているのだ。 だからと言って覚えが悪い者には酷い罵りを浴びせるのはブラック企業に分類される悪どさである。 ある日、新しく入った高校を卒業したばかりの不良上がりの青年がその先輩に噛み付いた。 「入ったばかりで手際が悪いのは謝りますけどなんで俺丸ごと否定されなきゃいかないんすか?」 皆が待っていた見せ場だ。 「こんな単純な仕事もこなせない奴は生きてる意味無いんだよコラ!口応えなんかしてる時点でアウトなんだよ!とっとと辞めちまえ!」 引き下がるわけはなかった。 「辞めてもいいけどお前もな。」 青年は周りを見回し口に人差し指を立てて微笑んだ。内緒という意味だ。 近くにあった包丁を柄ではなく刃の方を左手で強く握った。指の間から鮮血が滴り落ちた。 「先輩、言葉が酷いだけならいいけど包丁を突き付けたりしちゃダメでしょ?社員さんに報告しますね。」 居合わせたアルバイト全員が絶句したが 青年は笑顔のままだった。
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