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「くそ……」
どうして当たらない…。
シリアの思考はそれで埋め尽くされている。
学園ではトップクラスの実力でありながらも、何一つ当たる気配は無いことに苛立ちを隠せずにいた。
「簡単に言えば実力の差だな。それ以上でもそれ以下でもない。戦いにプライドなんざ何の役にも立たねぇよ」
「お前は…どこまで人をバカにすれば気が済む!?」
「物分かりが悪いようで…よし、一発だけちょいと真面目にぶちこんでやるか」
息子が完全に遊ばれてる光景を見て複雑な心境のシエルだが、翔に関わることで何かを見出だすはず。
そして、聞き分けのない馬鹿息子に少しでも『戦いに身を置くとは何か?』を知ってもらおうではないか。
一つ深呼吸をし、刀を腰に構えた翔。
魔力の増加は特に見られないが、風を纏っていることから少し無茶してるのでは?と思った。
が、本人としてはこれっぽっちも気にしておらず、あくまで指導の為、少し痛い目を見てもらおうという思惑である。
目の間にいる者を殺す気でシリアを見据え、柄を握る手に適度な力を込める。
刀に纏う風は鋭さを増し、所持者の衣服、髪を靡かせる。
シエルから見ても明確な攻撃体勢。
そして翔から発せられる殺意。
シリアは初めて感じる目の間の強大な『何か』に動けずにいた。
そしてそれは忽然と姿を消し、直後、自信の周囲に巻き起こった旋風の刃にその身を晒していた………。
「30点だな。まだお子ちゃまの戦いごっこの延長みたいなもんだ」
「いや、それでいい」
総隊長として、部下の育成は必然。
例え息子とて例外ではない。
一端の騎士を目指してこの場にいるならば、相応の地獄を覚悟してるのは当たり前。
あとは、それを乗り越えるのも挫折するのも本人次第。
翔の一撃で意識を刈り取られたシリアは救護室へと運ばれ、それを見ていた隊員達も翔の強さに呆然としていた。
あれが、戦神と言われる者…。
憧れの象徴か、恐怖の象徴か。
それとも単なる総隊長と仲の良い中身がオッサンな若い奴なのか。
どう思ったかは十人十色である。
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