282人が本棚に入れています
本棚に追加
「見事に誰も居ない、な」
夜。
高級リゾートホテル『エル・ド・ラード』前に降り立ち、周囲を見渡す翔。
本来であれば夜も賑わい、時には花火大会も行われていたリゾート地も今やゴーストタウンと化していた。
既に魔物に好き勝手やられたのだろう結界も何も無いここは格好の的。
食料を片っ端から漁られ、建物はあちこち破壊された形跡がある。
エル・ド・ラードも似たようなもので、ちょっとした心霊スポットになりかねない雰囲気を出していた。
「………凄いわね…ものの数日でこうなるなんて」
「………だな」
翔は少し目を細め、それだけ返す。
ラファエルもこれに関しては下手に喋らない方が良いだろうと感付き、話題を変えることにした。
「魔物がうじゃうじゃ隠れてる訳だけど…どうする?」
「そうだな、先ずは切れ味の確認から…」
探索を初め、何か魔物が襲い掛かって来ないかと思い歩いているが…襲ってくる気配が微塵も感じられない。
「来ないわよ?」
「来ないねぇ…」
「本能で逃げてたりして」
「んなアホな…」
と言う翔の顔は「さぁてどいつで試し斬りしてやろうかなぁ?」と斬りたくて仕方ないように笑みを浮かべている。
そんな危険な奴の気配を察知してか、「あ、こいつ色んな意味でヤバイ奴だ」と思ったのか、全ての魔物が一定の距離を保って近付こうともしない。
「とはいえ、無害な魔物を斬るのは嫌だしな…場所間違えたかな」
「あの戦いで翔の力を嫌でも感じた魔物も多いから、王都周辺は多分誰も襲い掛かって来ないかもよ?」
「マジか……………………………………ん?」
溜め息を吐き、前方に見える夜の海に目を向けた翔の視界に、普通なら有り得ない光景が映る。
月に照らされ、波打ち際で座り込む少女の姿が。
最初のコメントを投稿しよう!