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「桜庭先生、おしぼりです。少し熱いかもしれないので気を付けてくださいね」
「ありがとう」
峯岸さんは、本当に直ぐにおしぼりを持ってきてくれて、俺はそれを受け取る。
これを機会にもっとこう私的な会話を弾ませてみたいけれども、
何も浮かばない。
代わりに浮かぶのは過去、姉さん達に暇だから何か面白い話をしろと無茶ぶりをされて、懸命に振り絞ったネタをことごとく「つまらん」と却下された苦い思い出。
下手に話題をふったら、面白みのない男というのがバレてしまうかもしれない。
そう考えると、やはり何も浮かばない……
峯岸さんが持ってきてくれた、おしぼりを目に当てて沈んでいると、
「あの……」
と峯岸さん。
もしかして、俺がおしぼりを使い終わるのを親切に待ってくれているのだろうか。
「業務に戻ってくれていいですよ。これは後で私が持っていきますから」
「あ……いえ……そうじゃなくて……」
「……?」
「あの……」
何か言いたげだが、言い出せない雰囲気の峯岸さん。
一体、どうしたというのだろうか。
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