蜜鹿の子

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「あのじじい……」 ボソッと呟いてから双棒をしっかりと握ると、勢いよく針金が伸び蜂が逃げても何処までも追っていく。 初めの数匹が灰になり針を飛ばしてきたが、今度は稲膜でしっかりとガードした。 「レディの服を汚しやがって、お前ら全滅させてやるからな!」 双棒は手元に戻らず勢いよく回転し、次々と蜂の影を蹴散らしていくので、扇風機作戦で巻き込んでやろうと考えた。 浮かび上がっては消え部屋中を逃げ惑う影だが、一匹も逃したくないので、自らが壁の方向に歩き勢いよく駆け上がった。 「あ、これ凄い!」 壁なのに普通に道を歩いているみたいで、針金はもう部屋全体まで届いていたが、壁を歩く感覚を楽しんでいた。 こんな便利な物あるなら初めから出して欲しいと、横に走ったりジャンプを試している内に、蜂の影はすっかり消えてしまっていた。 「ホホッ、いつの間に草刈り機を出せるようになったんです?本当退屈しない人ですね」 マイクから声がしてガラス張りの部屋を見たが、草刈り機とはいい例えだと床に降りて座ると、社長が飲み物を持って部屋に入って来た。 「温まりますよご褒美にココアです、どうぞ」 リーダーと黙って口をつけたが、甘い物でほっこりした気分になった。 「そのブーツは新作ですが、友人の老舗専門店で特別にあつらえてます。元同僚で機転も利き、頭もいいので商売して大儲けです」 「空を飛べる道具とかないんですか」 「似た感じの物はありますが使い方が難しいので。将来的にはいい品が完成してるかもしれませんね」 にっこりと笑い又目が線になっていて、本当にキツネみたいに見える。 「次は泊まりらしいですね、あの世界は美味しいスイーツも沢山ありますが温泉もいいですし、私もついて行きたい位です」 キツネは澄ました顔で出ていったが、ココアを飲み終わると部屋を出て着替えを終えた所で、妹が寝ていた事を思い出した。 「あ、姉さんこっちこっち!」 受付から顔を出した妹は手招きをしていた。 「いつの間に起きたの?」 少し前に起きて着替えをし、ちゃっかりとパンフレット見せて貰っていたらしく、カウンターの奥の机の上にケーキの冊子が並べてある。 人がトレーニングをしている間様子も見に来ず、呑気にケーキを選んでいたとは、さすが図太い神経の持ち主だ。
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