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彼は、他の誰にも見せない、秘密の顔を持っている。 学校でも一番の美形で、学力も常に学年トップ。誰に対しても分け隔てなく接する朗らかな性格で、男女問わず高い人気を得ていた。 そんな彼だが、家に帰り自分の部屋へ入ると雰囲気が変わる。 私の顔を見た途端、外ではとても見せられないようなにやけた表情を作り、「ただいま」と告げる。 彼は私の「おかえり」を待つ間もなく、鞄を置くと嬉しそうに私の方へ駆け寄って来た。 私の言うことを聞かないのが、彼の唯一の欠点だ。 「今日も、いい子にしていたかい?」 ――ええ。 「それじゃ、君にご褒美をあげよう」 彼はそう言うと私の頬を手で覆い、目を閉じて顔を近づけた。 私はそれを見つめる。 やっぱり彼はきれいだ。 私に彼の唇が近づき、そして離れた。 ガラスケースに彼の唇の跡が残る。 「ああ、きれいだよ、×××」 ――ありがとう。 私がお礼を言うと同時に、彼は満足そうに顔を離した。 彼は椅子を引いて腰を下ろすと、机の上の私をじっと見つめる。 「君が僕のものになってくれて、本当に嬉しいよ」 恍惚の表情。 「これからもずっと、僕だけの君でいてね」 慈愛の表情。 「愛してる、×××」 幸福の表情。 私には二度と出来ない表情。 ガラスケースの中から彼の顔を見て、私は久しぶりに考える。 私の体は、どうやって処理されたのだろうか。
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