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「お前は、アキヒロがこんな美少年であるはずがない。そう思っているだろう?」
兄貴がタクヤに向かって言った。
そうなのだ。兄貴は俺と同じく童貞。しかも40歳になるまで童貞なのだ。
「当たり前じゃないか。別人だ。」
タクヤが美少年に向かって言った。
俺も今朝兄貴だといわれても信じられなかったんだ。
しかし、兄貴でしか知りえない昔の話や、兄貴の癖、性格、嗜好、どう考えても兄貴としか思えないのだ。完璧すぎる美貌に変貌した兄貴。
「俺は童貞で40を迎えたからな。妖精になったのさ。見ろ、この美しさ。真の童貞だぞ?」
と兄貴は肩をキザにすくめた。
タクヤは完全にパニックになっている。
「俺は妖精だから、もっと高いステージにいるのだ。さあ、マドカたん、おいで。」
するとポスターの中からまどかたんがフワっと浮き出てきた。
嘘だろっ!
等身大のまどかたんは、美少年の腕にすっぽりと包まれた。
「俺のまどかたんに何をするんだ!」
俺は逆上して、兄貴に掴みかかった。
「悔しかったらお前も早く、俺のステージまで追いつくことだな。童貞を極めろ!」
そこから取っ組みあいの兄弟喧嘩が始まった。
「やめろ!カズヒロ!アキヒロと名乗る美少年!」
タクヤが止めに入ったけど、俺と兄貴の喧嘩はおさまらない。
「いてっ」
タクヤはテーブルの角で頭をぶつけた。
兄貴と俺が取っ組み合いの喧嘩をしている間に、マドカたんはタクヤに近づいた。
「マドカ、あなたのほうがいいわ。」
そう言うと、マドカたんは、タクヤに覆いかぶさった。
俺は目を疑った。等身大のマドカが、タクヤに。
ちくしょう!永遠に俺の嫁じゃなかったのかよ!このビッチめ!
俺はそこで目が覚めた。
え?まさかの夢オチ?
マドカの等身大ポスターの下でうなされているタクヤ。
「マドカたん?」
俺は恐る恐る声に出してみた。
何も返ってはこない。
ははっ。
ははははっ。
魔法使いになんて、なるわけねーじゃん。
バカみてえ。俺。
俺は本棚の魔術の本を全てゴミ箱に捨てた。
そして、ゴロリと横になると、涙がつーとこめかみを伝った。
うなされるタクヤの横には、非モテ不細工兄貴がいびきをかいて寝ている。
俺は童貞を捨てるべく、夜の街へと旅立った。
さよなら、マドカ。
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