第1章

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「お前は、アキヒロがこんな美少年であるはずがない。そう思っているだろう?」 兄貴がタクヤに向かって言った。 そうなのだ。兄貴は俺と同じく童貞。しかも40歳になるまで童貞なのだ。 「当たり前じゃないか。別人だ。」 タクヤが美少年に向かって言った。 俺も今朝兄貴だといわれても信じられなかったんだ。 しかし、兄貴でしか知りえない昔の話や、兄貴の癖、性格、嗜好、どう考えても兄貴としか思えないのだ。完璧すぎる美貌に変貌した兄貴。 「俺は童貞で40を迎えたからな。妖精になったのさ。見ろ、この美しさ。真の童貞だぞ?」 と兄貴は肩をキザにすくめた。 タクヤは完全にパニックになっている。 「俺は妖精だから、もっと高いステージにいるのだ。さあ、マドカたん、おいで。」 するとポスターの中からまどかたんがフワっと浮き出てきた。 嘘だろっ! 等身大のまどかたんは、美少年の腕にすっぽりと包まれた。 「俺のまどかたんに何をするんだ!」 俺は逆上して、兄貴に掴みかかった。 「悔しかったらお前も早く、俺のステージまで追いつくことだな。童貞を極めろ!」 そこから取っ組みあいの兄弟喧嘩が始まった。 「やめろ!カズヒロ!アキヒロと名乗る美少年!」 タクヤが止めに入ったけど、俺と兄貴の喧嘩はおさまらない。 「いてっ」 タクヤはテーブルの角で頭をぶつけた。 兄貴と俺が取っ組み合いの喧嘩をしている間に、マドカたんはタクヤに近づいた。 「マドカ、あなたのほうがいいわ。」 そう言うと、マドカたんは、タクヤに覆いかぶさった。 俺は目を疑った。等身大のマドカが、タクヤに。 ちくしょう!永遠に俺の嫁じゃなかったのかよ!このビッチめ! 俺はそこで目が覚めた。 え?まさかの夢オチ? マドカの等身大ポスターの下でうなされているタクヤ。 「マドカたん?」 俺は恐る恐る声に出してみた。 何も返ってはこない。 ははっ。 ははははっ。 魔法使いになんて、なるわけねーじゃん。 バカみてえ。俺。 俺は本棚の魔術の本を全てゴミ箱に捨てた。 そして、ゴロリと横になると、涙がつーとこめかみを伝った。 うなされるタクヤの横には、非モテ不細工兄貴がいびきをかいて寝ている。 俺は童貞を捨てるべく、夜の街へと旅立った。 さよなら、マドカ。
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