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あの子の目からはポロポロと涙がこぼれていた。
手で涙を拭ってはこぼれ、拭ってはこぼれ・・・。
僕はただ、あの子のその表情を見ていることしか出来なかった。
「ごめ…ごめんね…。違うの…私…」
あの子は泣きながら何かを伝えようとしていた。
「すごく…嬉しくて…。でも…でもね…付き合えない…」
そんなこと分かっていた。それでも真剣に聞いてくれたのが嬉しかった。
「私……私ね…」
好きな人がいる・・・なんて言われるんだろう。それでもいい。僕は頑張って伝えることができたんだ。悔いはない。
「去年の3月に……余命1年半…って言われたの…。だから、私なんか好きになったら駄目なの…」
あの子は病気だった。残された時間、楽しい学校生活を選んだんだ。
「でも、あなたのおかげで…この1年、とても楽しかった…。ありがとう」
僕は冷たい人間なのかもしれない。
「それでも僕は!…あなたと、一緒にいたいです…」
好きと伝えるほどあの子は悲しむ。あの子は優しいから。あの子が亡くなって、残された僕に悲しい思いをさせないために。
「僕はずっと、あなただけを見てきたんです。あなたに好きな人がいた時だけ、諦めようと思っていました」
あの子は泣きながら、
「そんな…好きな人なんて…。私…私は…」
僕は黙ってあの子を見つめていた。
「私も…あなたが…好き…です」
気づいたら僕は、あの子を抱きしめていた。
人見知りで、女の子とろくに喋ったことのないこの僕が・・・。
僕に、今日。
彼女が出来た。
彼女は僕の自慢でもあり、僕のすべてだ。
優しくて、可愛くて、こんな僕のことを好きになってくれた。
でも、彼女の余命は・・・あと半年だった。
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