番外:精霊の夜と王の願い・3

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なぜか悪魔の面をつけた男が邪魔をしに来ない…と思ったら、シュウ殿の周りを遠巻きにウロウロしている。 それを周囲のみんながクスクスと笑う。 子供がキャッキャと喜んで「悪魔と悪魔!」と叫んだ。 またみんながドッと笑う。 ……もう一人悪魔が増えたんだろうか。 それらしき姿は見えないけど。 シュウ殿がこよりを結ぼうとすると悪魔が寄ってきた。 邪魔な悪魔を片手で制圧してシュウ殿がこよりを結びつけてている。 ジタバタする悪魔に周りがドッと湧いた。 こんなに子供ウケのいいシュウ殿を見たのは初めてだ。 俺たちを最後に人形に火が放たれた。 パチパチと音を立てて炎が昇っていく。 木や藁が焦げる香りが広場を包んだ。 うねる炎に顔を照らされながら、人々が一心に火を見つめている。 「シュウ殿は何を願ったの?」 「人々の平穏だ。イチハは何を?」 「俺もそんな大きな願いにするべきだったかな。…もっとシュウ殿の笑顔が見たいって」 シュウ殿は驚いた後、困ったように眉を下げた。 「それは…努力をしよう」 うっすらと頬が赤くなったのは、焼けるような炎の熱のせいだけではないだろう。 「俺も、もっとシュウ殿に笑顔を見せてもらえるよう、幸せにする努力をするから」 フッと優しく微笑んで、シュウ殿が俺の肩を抱いた。 小さな笑顔だけで、俺の心まで温まってくる。 幸せにすると言ったばかりなのに、俺ばかり幸せになってしまって困る。 炎の熱を背中に受けて、広場を後にする。 シュウ殿の取ってくれた宿はそこからそう遠くない場所だった。 宿についた途端に疲れが出る。 案内されるままに部屋に入って素早くシャワーを浴びた。 上がって一息き、大きな窓に目をやると、広場の人形は半分ほど焼け落ちていた。 皆の願いを乗せて煙が天にのぼって行く。 そして地平線に今年最初の太陽が空を赤く染めながら光を伸ばしていた。 「綺麗だな」 素早くシャワーを浴び終えたシュウ殿が、窓辺に立つ俺を背後から抱きしめてくれる。 「本当にきれいだ」 たったそれだけで、二人の心が繋がった気がした。 けれど空が青さを増すほどに、眠気が勝ち始める。 名残惜しいがカーテンを閉め、二人寄り添いすぐに泥のように寝入ってしまった。 ◇ 夕方に起き出し、二人でまだ新年の賑わいを見せる街を歩いた。 屋台が立ち並び、辻々では様々な芸などを披露している。 目的もなくただ歩くだけで充分楽しめた。
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