579人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
人混みでさりげなくシュウ殿が俺をかばってくれる。
俺だって長身な方なのに、半身で守るシュウ殿の厚い胸を頼もしく感じてしまった。
食欲をそそる美味そうな匂いが通りに漂う。
串に刺さった餅が焼かれていた。
「買おうか?」
シュウ殿に尋ねられ、顔がほころんだ。
けど、これはいけない。
アジュラン陛下に言われたのに加え、俺もそうしたいと思ってた。
俺がシュウ殿を甘やかすのだ!
けど、これじゃいつもと変わらない。
「俺が買う。どれがいい?」
シュウ殿は少し不思議そうな顔をして焼いた餅を選んだ。
そして他の人たちと同じように歩きながらそれを食べる。
けど、夜に焼き菓子を食べた時と違い、妙にシュウ殿がぎこちない。
「もしかして、あまり好きじゃなかった?」
「いや、これは…その…歩きながら食べるというのが初めてで。焼き菓子くらいならどうにかなったが、これは案外難しい。どうにも足が止まってしまう」
「え!?」
かつては森に住み、街中では警備局の仕事で荒くれ者相手に大立ち回りを演じる事のあるシュウ殿だが、考えてみれば街中で歩き食いなどするような生まれではない。
「だったら、そこの広場に座ろう」
広場の石段に誘導しながら、内心『歩きながら食べる事が出来ない…』と、戸惑うシュウ殿が可愛くて可愛くて…。
「どうぞここに座って」
ほんの少しだけど、シュウ殿をエスコートできた。
「ありがとう」
にこりと微笑んでシュウ殿が餅に口をつける。
座れば当然食べられる。
当たり前だ。
けど、ああああああ……可愛い。
俺の顔はもう修復不可能なくらいデレデレだ。
「ああ、素敵な髪紐だな。これとかどう?」
再び歩き始め、小物屋台の前に立ち止まった。
「綺麗な色だ。でも、イチハには少し派手な気がする」
「俺にじゃないシュウ殿に。ああ、どれも素敵だ」
「私に?いや、これはさすがに派手すぎだろう」
赤と黄色と緑、白で組まれ華やかな玉が四つ付いている。
シュウ殿は地味な服装を好むけど、メリハリの効いた顔立ちなので小物は少し派手なくらいで丁度いい。
「ああ、こっちも素敵だなぁ。どちらが好き?」
「私はいいよ。イチハのを選ぼう」
「年またぎの贈り物を買いに出られなかったでしょう?俺が選んだ物をシュウ殿に身につけてほしいから」
強引に俺の選んだ髪紐二つの中から、シュウ殿に好みのひとつを選んでもらった。
最初のコメントを投稿しよう!