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アジュラン陛下の語り口やジントウイ殿の反応を見る限り、本当に猫っ可愛がりしていたようにしか思えなかったけど。
「アジュラン兄上に身動きも取れないほど強く拘束され、ぐったりするまで反省させられた後、当時まるで私に第二の母のように接してくれていたファリョ様がいつも優しく頭をなで菓子などをくれ慰めてくれていた」
陛下は『照れて、次第に自分から抱きついてくれる』と仰っていたのに、シュウ殿の話だと拘束が辛く力つきてしまっただけのようにしか聞こえない。
「でも、今も陛下はシュウ殿を大変可愛がっていらっしゃると聞いたけど」
「……それは…そんなことまで」
シュウ殿の眉が少し困ったように下がる。
「……私なりに頑張ってはいるが、陛下には私の働きは物足りないのだろう。あえて子供扱いをし、力不足を自覚させようとしてるのだ」
「え、いや、でも、ファリョ王妃はとても微笑ましい光景だとおっしゃってらしたけど」
「それはあの方がとてもお優しいからだ。不出来な私にいつも慰めの言葉をくれる」
「いや、慰めなんかじゃないと思う。アジュラン陛下だってシュウ殿のこと本当に可愛く思っているはずだし」
フッと微笑んで、シュウ殿が俺の頭を撫でた。
「イチハも優しいな。アジュラン兄上が常日頃私に厳しく接していても、心の底では私のことを愛し、成長を願っているということはきちんとわかっているつもりだよ」
いや、きっとアジュラン陛下はストレートにシュウ殿を可愛がってるつもりだ。
でも、全然シュウ殿には通じていない。
「……イチハは少しファリョ様に似ているな」
「え……あ、それ、アジュラン陛下もおっしゃってたいらしいよ。そうファリョ王妃からうかがった」
「そうなのか」
「うん、それからファリョ王妃に恋の話を聞いたんだ」
可愛らしいファリョ王妃の様子を思い出して、また顔が緩む。
「そんなことまでイチハに?随分と気に入ってくださったんだな」
「本当に光栄だって思うよ」
「ファリョ様の初恋はジントウイだそうだな」
「……………………は?」
未知の情報に俺はフリーズした。
「ファリョ様もご存知のようだが、アジュラン兄上の初恋もジントウイだったらしい」
「……………………え?」
「二人とも淡い恋心に過ぎなかったようだが、ジントウイは王都では非常に…まあ、なんというか恋多き男で……それ故に私とともに深淵の森へ引っ込むことを選んだんだ」
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