579人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
「え?え?え?どういう?ジントウイ殿がなぜ?」
「私も詳しくは知らないが、どうやらジントウイに激しく執着する者が数名、本人の与り知らぬところで諍いを始めたらしい。それから逃れるため深淵の森へ居を移す私に自ら志願してついてきたようだ。そうでもなければあのような優秀な男が隠遁暮らしなど周りが許さないだろう」
「え……それはもう、大丈夫なの?」
「もう十年以上前の話だからな。それに恋多き者が私とともに暮らすのだから、隠遁している間も皆好き勝手な噂を立てる。そのことも計算ずくなのだろう」
俺のジントウイ殿の印象がガラリと変わってしまった。
けれど振り返れば、俺に夜這いをするようやんわりとすすめるような言動をしたり、客間に香油を忍ばせたり、ソチラ方面に長けている様子はあった。
「けれど私が伴侶を定めてしまったために、ジントウイのまわりがまた少し賑やかになってきているようだ。本人はもうそんな年ではないと言っているけれど、おかしな事になる前に決まった相手を見つけた方がいいと思うんだが」
ファリョ王妃の心温まる恋の話をするはずだったのに、思いもよらぬ話が次々と出てくる。
「ジントウイ殿は、どのような方が好みなんだろう」
「…さあ、言寄ってくる相手は二十代から七十代まで幅広いようだが……」
聞いた俺が馬鹿だった。
シュウ殿に関係のある事ならともかく、どんなタイプが好みかなんてそんな浮ついた話をシュウ殿とジントウイ殿がするはずない。
けれど、普段そこまで口数が多くないシュウ殿でも、親しい人の事となると思いの外会話が弾む。
これは、王都に着くまでもっと色々な話を聞いてみたい。
最初のコメントを投稿しよう!