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王族も貴族にまぎれ市街に出歩いているという噂を聞くが、そもそも顔を知らないので本当かどうか確かめようがない。
姫の噂にはバリエーションがあって『兄妹であるにもかかわらず現王の愛を受け、その愛を一途に守るために身を隠した』などというゴシップ的なものから『魔法によって閉じ込められている』だの『昼間は動物になる呪いをかけられている』だのという、おとぎ話のようなものまでさまざまだ。
ほとんどの人が眉ツバだと思っている『深淵の森の姫』の噂。
俺が初めて『深淵の森の姫』の噂を聞いたのは十年近く前。
すでに大人と認められる年齢だった。
なのに俺は恋をしてしまった。見たこともなく、本当にいるのかもわからない姫に。
しかも噂の中でもかなり変わり種の姫に…。
はっきり言って正気の沙汰じゃない。
無茶苦茶だってわかっている。
でも…。
自分が本当にしたいことはなんなのか。
そう考えて心に浮かんだのはこれしかなかった。
『姫に会いたい』
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