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森の中を大きく迂回しなければならなかったため、移動と設営だけで1日が潰れた。
そして翌朝早く、森にこだまする快活な声で目が覚めた。
屋敷を見ると、男が一人庭で棒術の訓練をしていた。
ブンブンと、微かに棒を振る音も聞こえる。
護衛か。
二十代後半から三十代半ばに見える。
髪は短く、服の上からでもわかる引き締まった筋肉に、キレのある動き。
貴族の手習いのように、型通りに止めるのではなく、打ちのめす事を想定して、力強く振り切っている。それから剣術をはじめ、弓、鎌と、実戦を想定した稽古は続く。
俺は美しい動きに見惚れて時を忘れていた。
護衛らしき男が館に入り、窓の中の微かな気配で浴場の位置を割り出す。
朝食前に湯を浴びて汗を流すんだろう。
それからしばらくして、老人や小間使いが日常の仕事をこなしている様子が見えた。
護衛の男は馬の世話をしている。
また、馬の世話をする男の様子をジッと見つめる。
男が館に引っ込んだ。
日がすっかり高くなり、もう昼食どきだ。
俺はその日の午前中、朝食も食べずに、ただあの男を眺めていただけだった。
それからしばらくしてからも、姫の姿は認められなかった。
とはいえ、そう焦らなくていい。
俺はここに十日は居座る気だった。
無茶苦茶なことをしているという自覚はある。だからこそ、一世一代の無茶をしつくすつもりだ。
山からこの近辺を観察していた時に、川の位置も確認していた。
そこにいくまでの道を見つけておいたほうがいい。
ついでに館の周囲の様子も確認しておく。
うっかり屋敷の畑に入り込んだり、罠にかかったりしてはまずい。
不審者として悪印象だけは与えたくない。まあ、周囲をうろついているだけで充分不審者なんだけど。
山の恵みを少し分けてもらってキャンプへ帰ると、あたりはもうすっかり暗くなっていた。
館が見える位置で火を焚くわけにもいかないから、明日は煮炊きができる場所を探したほうがいい。
また次の日、男の鍛錬の声が響いていた。
もう少しよく見える位置に移動して、持ってきた食料と採取した木の実を食べながら、男の棒術を眺める。
あまりに美しい動きにウットリしてしまう。
昨日はおぼろげにしか見えなかった顔もはっきりと見える。
大きな口にはっきりとした鼻梁。強い視線。
見るからに力強い武人といった容貌だった。
姫の護衛(推定)をしているくらいなのだから、名のある人物なのかもしれない。
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