4/5
前へ
/154ページ
次へ
…しかし、まてよ。 深窓の姫君だと思っていたけど、こんな男臭い男前がそばにいて…一緒に暮らして…。 何もないはず…ないよな。 ヴぁぁ…。 あの男前な護衛が、俺みたいに物語の姫にしか恋のできないドへたれなわけがない。 好きな人の1m以内に入れません…とか思ってモジモジして不審がられるような腐れ童貞には見えない。 きっと、とっくに…。 いちゃいちゃして、エロエロして…。 「ひめ!愛してます」「護衛!愛してる!」 ってな…。 ここまで執念を燃やしてたどり着いたのに…。 姫を見る前に…………尽きた。 いっそ、護衛の食指も動かぬほど性格ブスのダメダメな姫ならいい。 『筋肉ダルマ近寄るな…』とか言われて3m以内には近寄れないとか。 もう完全に方向性を失った支離滅裂な妄想に苛まれながら、昨日と同じように馬の世話を眺めた。 愛情深く馬にブラッシングをしている。 遠目だが、優しく微笑んで話しかけているのがわかる。 強くて、たくましくて、しかも優しい。 完璧じゃないか…。 勝てる気がまったくしない。 ただただ見惚れるばかりだ。 俺は彼が世話を終え立ち去るまで、またぼーっと眺めてしまっていた。 昼食にするため川に行って魚を獲った。 煮炊きの煙が館から見えないよう、場所を探し魚を焼いて食べた。 保存食や狩りの道具など色々準備してたのに、調味料がなかった。 魚だからまだ大丈夫だけど、獣類は塩なしじゃキツイ。 調理のバリエーションがいきなり減ってしまった。 とはいえ、ちょっと教えてもらった以外は狩ったことがない。 それに実際捕まえても、下処理がきちんとできるか自信がない。 食事を終え、煮炊きの形跡を消して、ダラダラとキャンプに戻る途中で、護衛の男を見かけた。 どうやら狩りをしているらしい。 日常的に狩りは彼の役割なのか手慣れた様子だ。 獲物と間違って攻撃されないよう身をひそめる。 彼はほんのちょっとの間に弓と槍で鹿を仕留めてしまった。 ちょっと、手早すぎないか…。 狩った獲物を前に命を頂く事への感謝と謝罪の祈りを捧げている。 木の間からこぼれる光に照らされるその姿に神々しささえ感じ、子供の頃に読んだ神話の戦神に彼を重ねた。 普段からこうしているのだろう、慣れた様子なのにその祈りは真摯で、彼の誠実な性格が垣間見える。 それが余計に胸に響いた。 そして、護衛の男は数十キロはあるはずの鹿を軽々肩に抱えた。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

576人が本棚に入れています
本棚に追加