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「そうよ。行く当てもなく、転々としているわ」
「じゃあ、すぐいなくなってしまうんですか?」
「どうかしら。できれば落ち着いて暮らしたいのだけれど。少なくても数週間はいられると思うわ。でもどうして?」
「い、いえ。また、会えたら会ってみたいな……なんて」
「ふふ。奥手そうなのに、随分と積極的なのね」
「そ、そうじゃないです!そういうんじゃなくて!僕は、ただ――」
ただ、なんだろうか。興味を惹かれたとも、恋愛感情が沸き起こったとも言えない。千代さんと話していると、僕の中の僕すら知らない感情が湧き上がってくるのがとても心地良く、そして安心できた。
彼女は悪戯に笑う。笑うのが好きなのだろうか、最初に見せた時の困ったような顔は今では多彩な笑顔を魅せる。潮風と共に彼女のなんとも言えない、花のような香りが鼻孔をくすぐる。
「明日もここに同じ時間に来るわ。それよりご家族は心配されてるんじゃないかしら?もう結構な時間よ」
千代さんにそう言われ、焦って携帯を見る。既に21時を過ぎていた。祖母が心配しているかもしれない。
僕は千代さんに「明日も必ず来ます」と伝えると、急いで帰宅した。
彼女の言うように祖母は心配したのか、寝たきりの身体を引きずって、玄関にいた。僕は祖母に謝り、友人と携帯電話で話していたことを伝える。
祖母は僕が帰ってきたことに安堵し、そして、僕に友人がいたことにも安心したようだった。それだけ僕は人との関わりを拒絶していた。
明日も同じ時間に出る事を言うと、少し心配しながらも了承してくれた。
そして、翌日の夜になり僕は急いで海辺に行くと、そこには既に千代さんの姿があった。
彼女は海風を全身の肌に感じるような姿で立ち、海の全てを味わっている。後ろから声をかけても問題ないかとあぐねるっていると、彼女は後ろを振り返らずに「少年、来たんだね」と言う。
僕は千代さんの横に立つと、平均的な身長の僕よりも少し低い彼女は振りむき少し意外そうな顔をした。
「なるほど、少年の背は私より高ったのか……」
「何歳だと思ったんですか?僕はもう18ですから、背だってそれなりにありますよ」
「そう言えばそうだね。可愛らしい顔をしていたから、てっきり背も低いのだと思っていたわ」
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