完全な彼女

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そんなに童顔ではないです。と言いかけたが、また千代さんのからかうような笑みに僕は見惚れてしまった。どうにも緊張と安心が入り混じる、高揚した感覚が言語中枢を麻痺させる。そんな感覚に陥る。 これが恋だと言うなら、僕は随分と高嶺の花に惚れてしまったようだ。 僕はいままで恋愛に無関心だった。初恋がこれほどの人なら、よほどの面食いなのかもしれない。そう自嘲していると千代さんは真面目な顔をして僕に問いかける。 「少年にとって生きるとはどういう感覚だと思う?」 「生きる……ですか。実感がないですね。でもこうやって話していると、色々な感情が湧き出るようで生きていると感じます」 急な千代さんの問いに、僕は考える間もなくただ無意識にそう答えていた。 彼女はその答えを聞くと、嬉しそうにも悲しそうにも見えるような微妙な表情を僕に向ける。 「千代さんにとって、生きるってどういうことですか?」 僕は何となく先ほどの問いを千代さんに返してみた。彼女の表情は微妙な顔から、直ぐに困惑したような表情に変わる。 僕は何か困らせることを聞いてしまったのだろうか……。昨夜の話だと冗談なのかわからないけど、各地を転々としているようだし。踏み込んだことを聞いてしまったのかもしれない。 「あの、答えにくかったら別にいいですよ。何となく聞いてみたかっただけなので」 「にくい、ではなくづらい。だよ少年」 「え?」 「言葉と言うのは、音によっては相手を不快にさせてしまうからね。答えにくい、より答えづらい。のほうが私は好きよ。生きるって言うのは、私からしたらどうかしらね。とても長い感覚かしら、ただ惰性に身を任せながら生かされている。とも言えるわね」 僕は「それは、どういう意味ですか?」と聞くと彼女は、困ったように笑い「そのうち解るかもしれないわ」と答えた。まるで、それは幼子に老人が言うような、そんなニュアンスを受けた。 とは言っても、千代さんは僕よりも精々5歳くらい上にしか見えない。それなのに、彼女がそういうニュアンスを向けると言うのは、それだけ色々な人生経験があったのだろうか。 「千代さんは人生経験豊富なんですね。まるで年長者の方と話してる気分です」 「年長者には変わりないわよ?私は18歳は過ぎてるわ」 「いや、なんていうか」 「お年寄りみたいだ。って思ってるのかしら?」
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