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千代さんは少し不服そうに僕を見ると、僕は自分の失言に気づき謝る。
すると彼女は不服そうな顔から瞬間的に、笑顔に変わると僕の頭を撫でながら「許してあげるわ」と言った。
僕は突然の出来事に驚き硬直してしまう。
柔らかい。
千代さんの指が優しく僕を撫でると、それだけで僕は彼女に視線を合わられないくらいに頬が赤くなってしまう。頭が真っ白になりそうな自分を堪えながら、なんとか「子ども扱いしないでください」怒ったように言った。すると、彼女はまた悪戯そうに笑う。
彼女としてはからかい半分なのかもしれないけれど、僕としては千代さんへ真剣な恋心を抱いてしまったのだろう。
そう自覚すると、寡黙な自分自身が余計に緊張で寡黙になる。それを知ったように彼女は困ったように笑う。本当に多彩な花のみたいに笑う人だ。
「少年。少年はもしかして、私に一目惚れしてしまったのかしら」
「……」
「黙っているという事は、図星なんだね」
否定するべきだろう。頭の隅で冷静な僕がそう言った気がする。例え初恋の熱に魘されたとしても、一目惚れだとしても。
彼女と僕とでは到底、釣り合わない。そんな事は解りきっている事だ。だからこそ、ここは否定しないといけない。
それでも、それでも僕は否定が出来なかった。そしてやっと出た言葉が言い訳だった。
「初恋は、破れるものと言います。だから別に、付き合ってもらえるとも思っていません。ただ千代さんと話せれば、それで満足です」
「そうか…少年は素直なのね。私も最初の頃に恋愛した時には、そう思ったわ。叶えられなくても良い。話せればそれでいいんだって。でもね、何回も続くうちに辛くなってしまったのよ」
「話すのが、ですか?」
「それはないわ。でもね。そうね……。少し、考えさせてくれるかしら」
千代さんはまるで、思いつめたかのような苦しそうな表情をする。僕は自分のその恋心が彼女を苦しめるのなら、言うべきではなかったと後悔した。僕の表情が苦悩に歪んだのに気づいた彼女は、少し慌てたように手を振った。
「違うのよ。貴方の気持ちは嬉しいの。一目惚れでもね。でも…いや、明日話しましょう」
彼女はそう言うと、「また明日ね」と言い。僕を通り過ぎ離れていってしまった。それは失恋よりも苦く、僕の頭を混乱させる。
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