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そう言うと、彼女は困ったような嬉しいような笑顔を僕に向けた。「全く、今時にしては早熟た子ね」と言い、僕に新聞紙の包みを渡した。
僕はそれを受け取る。三角形のような形の包みをよく見ると、それは包丁のような形だった。
「愛しているなら終わらせてくれないかって言ったら。少年は終わらせてくれるかしら」
その目はからかいでも、試すようなものでもなく。ただ真剣に僕へと向けられていた。怖気づいたわけではないが、震えた。何とか平静を保ちながら、千代さんになるべく、男としての度量というものを見せてやろうと見栄を張った。
「終わらせてほしいというなら、千代さん。何故そうしなければいけないのか教えてください。納得できるのなら、僕は厭わない」
言葉で言ったが、内心はどうにか回避したいと思った。それを悟られないように、なるべく彼女から距離を置く。今日が晴天じゃなかったのは良かった。千代さんの表情は見えなくなるものの、僕の表情も見えないだろう。
「本当に……困った少年ね」
「教えてくれないですか?」
「言ってもきっと嘘だと思うわ」
「そんな事はありません。僕は、千代さんの問題を嘘だとは思いません」
それは紛れもない本心だった。とは言っても金銭的な問題だったら、今の僕にはどうする事もできない。それでも、彼女の問題を理解したかった。
「私ね、遺伝子に問題があるのよ」
「病気ですか?」
「そうね。決定的な欠落よ。生物としてあってはならない病気なの。なんて言ったらいいかしら。一番、解り易いのは不老…ね」
冗談のような事を真剣に言う。表情は見えないけど、けして茶化しているのではないのが理解できる。
「な、治らないんですか?」
「治せたら苦労しないわ。私の遺伝子はね、突然変異で老いて亡くなることはないの。つまり、事故や自死、他殺されない限りは生き続けなければいけないのよ。それももう、かなりの長い事…」
千代さんはそう言うと、僕に近づいてきた。彼女は彼女なりに僕が真剣に話を聞こうとしているのか、不安なようだ。僕の強張った顔を見て、彼女は安心し、また悩ましい表情を浮かべる。
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