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氷山郡司の表情が変わる。固まる。その一瞬が、私にはとてつもなく長い時間に見えた。
「俺の玩具に何してるんだ?ミーカちゃん」
起臥魯迅。死神。
奴の声が聞こえると同時に、私の体がドサリと地面に落ちた。
放された……のではない。
落ちた。私の体ごと、氷山郡司の手首が切り落とされた。右手が丸ごと、手首から先が切り落とされた。
起臥魯迅が私達の元に近寄る。両手には刃物。あれは、死神の刃。
「い……ぎぃやぁぁぁ!手ぇ!アタシの、手ぇぇぇ!」
奇声を発する氷山に起臥魯迅が冷たい目を向ける。
殺気。これが殺気。死神の怒りがフツフツと伝わってくる。向けられているのは私ではないのに、恐怖で体が動かない。震えが止まらない。
ニヤニヤと笑っていた起臥魯迅が嘘のように冷たく、そして怖い顔をしていた。こいつのそういう顔を私は、初めて見た。
これまで感じた事のあるどの感情よりもどす黒く、深淵のように深い。触れようとすると一瞬で飲み込まれそうになるくらい。
近くにいるだけで恐怖を感じる。生きている心地がしなくなる。殺気だけで、私の体の機能が麻痺してしまう。
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