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放課後。
カフェでたわいもない話を終えた帰り道。
「ねえ、沙耶。もうちょっと話してかない?」
公園の前。
「うん。いいよ」
ベンチ。
俺の手にはブラック無糖の缶コーヒー。
彼女の手にはカフェオレ。
「寒くない?大丈夫?」
俺は、さりげなく着ていたアウターを脱ぎ、彼女の肩にそっとかける。
「ありがとう。でも、間宮くん、大丈夫?」
「大丈夫。俺は鍛えてるから」
両腕で力瘤を作り、片膝を地面に付き、アメコミのスーパーヒーローのようなポーズ。
「ふふ。間宮くんって面白いよね」
「へへ…」
俺は照れ笑いを見せながら彼女の隣に座る。
彼女の肩に手を伸ばし、さっき掛けてあげたアウターを掛け直す。
「ありがと」
「いや」
そのまま手を彼女の腕のあたりまで下し、アウターの前を合わせてあげるようにしながら、流れでギュッと抱きしめる。
「なあ、俺たち…」
「…え?」
「付き合わない?」
「…うん」
恥ずかしそうにうつむく彼女。
だが、その華奢な手が、抱きしめる俺の手の上にそっと重ねられる。
照れる沙耶にやさしく声をかける。
「ありがとう」
俺の声に答えるべく、うつむいた顔をこちらに向ける。
瞬間――。
前触れなしのキス。
一瞬、驚きに身体に力を入れる彼女。
しかし、まぶたを閉じた彼女の身体からは次第に力が抜け、行き場を失ったその力は、重ねられた唇のみにそっと、やさしく注がれる。
短く、長いキス。
静寂に包まれた公園には俺たち二人きり。
夜空に輝く月がただ一人、祝福の光を浴びせる。
完璧だ。
理子が集めたデータベースの中から“理想の告白”に関するデータを抽出、分析し、練りに練り上げたシナリオ。
見るがいい。
キスを終えた後の沙耶のこの笑顔を。
(にこっ)
エンジェルスマイル。
この笑顔はもう、俺のものなのさ。
「もう、離さないよ」
…フッ。決まった。
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