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「今日、省吾来るよ」
と裕之が言ったのは夕飯の後だった。
「じゃ、ご飯いいのね?」
「いい」
裕之は父に向き直った。
「省吾ね、オーディオ見たいって」
「お!本当か?なにが好きなんだ?」
「カントリーらしいよ」
「イイね!なんだろうなんだろ?どの…」
と、そこからカントリーミュージックのジャンルなのか、ミュージシャンなのか、名前を並べ立てた。
私も弟も音楽は好きだけど、父のウンチクが面倒で逆に興味が薄い。
立ち上がって食器を洗うと、母が言った。
「またアナタ、おこもりさん?」
「ちょっとだけね、おさらいしておかないと」
「うーん…市役所入れば良かったのに」
「近くがいいのは、通勤だけ」
昨日発売のファッション誌に、うちの会社が紹介された。
近代的なオフィス、ハイセンスな社員たち。
大学のサークルの延長線上で仕事してるみたいに、みんな笑ってる。
その中に、私もいた。
誰も思わない。
同じ会社にいなければ。
こうやって涼やかに笑ってる私が、本当はお荷物社員だなんて。
それでもいい。
私はそう思われる仕事につきたかった。
市役所では、叶わない。
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