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省吾くんがとつぜん勝負に出たのは、出会って一年近く経った頃だった。
父はジャズフェスに泊まりがけで出かけ、母も有給を取って同行していた。
裕之は、スノボーだったか?出張だったか?よく覚えていない。
今思えば、この状況を省吾くんは私以上に把握していたことになる。
インターフォンが鳴り、ドアを開けると省吾くんがいた。
私は弟が泊まりがけでどこかへ行った事を知らなかったので、
てっきり裕之が酔っぱらってカギでも無くしたかと思ったのだ。
裕之は酔うと「鍵なくしたー!」って言うけど、探してないだけで大体ちゃんと持っている。
だもんだから、私はパジャマ姿のまま、岩山とご対面した。
「わあっ。省吾くんかぁ、ビックリした!」
省吾くんは驚いたように、私をマジマジと見た。
「そんなカッコで、確認もせずに出るのは危ないです」
私はスリッパを出した。
「ヒロくんかと思ちゃって。まだ帰ってきてないよ、どうぞ」
「絶対に確認してから出て下さい」
「了解です。でも警察官が来たからには安全だね」
省吾くんは動揺したように、
「…安全じゃないです」
と謎のセリフを吐いた。
お茶を煎れながら、両親がフェスに行っていることを話すと、知っているような口ぶりだった。
それでもオーディオルーム、来たいんだ?
本当に音楽が好きなんだなぁ。
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