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「ねぇ七美」
「ん?」
「有り難う」
「何で?」
「何でって、感謝してるからだよ」
「いや、急にお礼なんてさぁ」
「七美がお父さんのお見舞いに行こうって言い出さなかったら、ワタシずっとお父さんのこと嫌いなままだったと思う」
「ああ、そういうことか」
「それに今の樋口くんだって、ずっとただのいじめっ子で、最低な人間だと思ったままだと思うの」
「そっか、じゃあポンヌフのケーキセットで手を打つよ」
七美は行きつけのスイーツショップの名前を出す。
「とりあえずお礼は食べ物なんだね」
ゆつきは思わず吹き出してしまった。
「そんなの基本でしょ?」
七美がニヤッと微笑む。
「有り難う」
ゆつきは七美の腕に自分の腕を組んで身体を寄せた。
二人はよく腕を組んで歩くことがあるけど、ほとんど七美から組んでくることが多く、ゆつきから組んだのは数回しかない。
七美もそれに気が付いたようで、満面の笑みを浮かべるとこちらに体重をかけて来た。
七美と出会えて本当に良かったと思う。
そのお蔭で、幼少時代の灰色だった記憶が、今カラーに変わったのだ。ゆつきは改めて来て良かったと思った。
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