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ディスプレイには母の名前。正直出たくない相手である。
大学を卒業した後、母はワタシが地元で就職すると思っていたので、とかく小言が多いのだ。
女の幸せは、結婚をして子供を育てることだと思っているから、県外で就職なんかしないで、地元で働きながら花嫁修業をしてほしいらしい。
でも、申し訳ないけれど、そのつもりはない。だってワタシは男性恐怖症で、女性しか愛せないのだから。
『もしもしゆつき』
受話器から久しぶりの母の声。
「何?」
『大変なの。お父さんが倒れたの』
「え?」
――お父さんが倒れた……?
『お父さんがゆつきには知らせるなって言ったから、秘密にしておこうと思ったんだけど、お父さんガンだってお医者様に言われて』
「ガン?」
――ガンって……。
『お父さんにはまだ言ってないんだけど、もうかなり進行していてそう長くは生きられないだろうって、お医者様が……』
「そ……」
『ゆつきすぐに帰って来てちょうだい』
母は泣きそうな声でそう言った。
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