第4話 里帰り

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ディスプレイには母の名前。正直出たくない相手である。 大学を卒業した後、母はワタシが地元で就職すると思っていたので、とかく小言が多いのだ。 女の幸せは、結婚をして子供を育てることだと思っているから、県外で就職なんかしないで、地元で働きながら花嫁修業をしてほしいらしい。 でも、申し訳ないけれど、そのつもりはない。だってワタシは男性恐怖症で、女性しか愛せないのだから。 『もしもしゆつき』 受話器から久しぶりの母の声。 「何?」 『大変なの。お父さんが倒れたの』 「え?」 ――お父さんが倒れた……? 『お父さんがゆつきには知らせるなって言ったから、秘密にしておこうと思ったんだけど、お父さんガンだってお医者様に言われて』 「ガン?」 ――ガンって……。 『お父さんにはまだ言ってないんだけど、もうかなり進行していてそう長くは生きられないだろうって、お医者様が……』 「そ……」 『ゆつきすぐに帰って来てちょうだい』 母は泣きそうな声でそう言った。
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