第1章

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知っている。これは、夢だ。 「いっけない」 振り返れば、そこに姉はいる。 「財布落としちゃった」 姉はポチのリードを引きながら、慌てて来た道を折り返す。 俺は姉を追いはしない。 「早くしろよ馬鹿姉。置いてくぞ」 そう言うと姉はええ?と言って俺の方を振り返る。綺麗な長い髪が、背中でさらりと風に舞った。 「え、亮ちゃん、待っててよう」 そんな姉の言い草に俺は僅かに苦笑し、安心させてやる様に言う。 「はいはい、待っててやるから。早く行け」 すると姉はもう、と笑い、俺に完全に背を向けて、あの忌まわしい道を走り出した。 ああ、姉さん。 今なら俺は、その背を呼び止めていただろう。 強烈なクラクション。次いで鈍く聞こえる衝突音。 あの日の記憶が蘇る。 「姉さん!!」 夢の中で俺が叫び、貴女の肉片が宙に飛ぶ。 紅葉と同じ赤を、俺のこの目に焼き付けて。 姉さん。 あんたはもう、この世にいない。
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