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「記憶がある限りは知らねーの。だから多分最初からいないんだよ」
「いないってことはないでしょ。響がここにいるってことは」
ふと聞いてしまったこと。
他人の人生に踏み込むようなこと。
そして、仰向けのまま天井を見つめる響から返ってきた、なんだか他人事のような答え。
「ん、まぁ、いたとしてもどーでもいいよ」
「そっか」
幼い頃の死別なのか、あるいは施設に預けられたか、たしかに顔も見たことない親ならばそれを求める気持ちもそんなに湧かないものなのかもしれない。
「俺、記憶がスゲー曖昧なんだよなぁ」
そこで話は終わりのつもりでいた俺に、響は独り言のように静かに語りだした。
「記憶喪失ってやつ?頭打ったとか?」
だから俺も鍋を片付けながら、話を促す。
「んー別に頭打ったり事故ったりはしてない…と思う。まぁ、そこも曖昧なんだけど…俺、ずっとなんかの研究所にいたから」
「研究所…ねぇ」
それは、酷くなじみのある言葉。
当然だ。ついさっきまで自分もそう呼ばれる場所にいたのだから。
「それって…響は頭の中を悪戯されて、記憶が飛んじゃったってこと?」
冷蔵庫から、何本目かのビールを二本取り出し、仰向けのままの響の隣に腰を下ろす。
缶を開け、一つを差し出すと体を起こし受け取った。
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