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「名前なんて知るわけないよ、あいつ教えてくれなかったからね」
一度だけ、たった一度だけ尋ねたことがあった。
でも『覚える必要なんでないんだよ』って言われて終わったっけ。
「そうだったのか…すまない…」
「で?その佐久間様がどうしたの?」
完全に胸元から手を放した男に背を向け再び公園へ向け歩き出す。
「さっきも言ったように、佐久間様は縛られているんだ…古い記憶に」
「記憶…ねぇ」
「俺らが属している施設、あんたらで言うところの研究所は―」
「脳内をいじくってる訳だ」
「っ…そうだ」
響が同じ研究所にいたとしての過程の下での俺の言葉だったんだけど、どうやら当たっていたようで、自分が言うはずだったセリフを先に言われて言葉を詰まらせる男。
記憶に縛られている社員と、脳内をいじられている実験体…?
どういう繋がりがあるんだ??
「もう一度頼む…助けてくれないか…」
ようやくたどり着いた公園で俺の前へ回り込み深々と頭を下げるその様は、本当に切迫しているように感じられる。
でも…
「理由は知らないし、知る必要もないよ」
「…!?」
やっぱり面倒ごとだった。
俺の脳内にあるのはそれだけで、同情もなにも感じてはいなかった。
きっぱりと断る俺の目をまっすぐ見据えたまま愕然としている男。
だけどそんなの関係ない。
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