二星 『ゴリラの家政婦と』

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 雨はすぐに安藤の安物のレインコートの内側まで染みこみ容赦なく身体を冷やした。それでも安藤は玲を探して森の中を歩きまわったが一向に見つかる気配はなかった。他の客は雨で皆帰ってしまった。昼間の心地よさが嘘のようなおどろおどろしい光景だった。  時間が経つに連れて安藤の頭には、案外地獄はこんな景色なのかもしれない、むしろ遭難しているのは玲ではなく自分の方ではないだろうか、などと余計な考えが浮かびはじめた。雨が降り始めた時よりも闇は深さを増し、体力を奪われている不案内の安藤がこれ以上一人で捜索を続けるのは不可能だった。  着ていた服を一度脱いで絞りトランクに積んでいたティッシュで身体を拭いて、助けを求めにいくためエンジンをかけた。森と山と空とは全て雨で溶けて混ざってしまった。ヘッドライトをつけるとその先にゆらゆらと揺れている黒い影があった。その影が幸福と絶望のどちらであるかの判断を留保するように徐行で近づいた。影は玲を抱きかかえたゴリラだった。ゴリラはヘッドライトに気がついて安藤の方へ向きを変える。ゴリラの目の前に来ても腕の中にいるらしい玲が動いている様子は助手席の安藤からは見て取れなかった。  車を止めるとゴリラが運転席まで走ってきた。外に出て恐る恐る近づく安藤にゴリラはなにか語りかけているようだった。雨音とエンジン音とゴリラの鳴き声に挟まれて玲の微かな泣き声が聞こえた。安藤はゴリラの腕からひったくるように玲を抱きかかえて立たせようとしたが玲はその場に座り込んでしまった。ゴリラは座り込んだ玲の元に駆け寄った。 「痛いよお、脚が痛いよお」  玲の視線に合わせるようにしゃがみこんで安藤は言った。 「どこに行ってたんだ。なんでお父さんに何も言わずに一人でどこかに行ってしまったんだ」  影の正体が希望だと知って箍が緩み、溜め込んでいた不安が堰を切ったように流れ出た。 「痛いよお」 「見せてみなさい。何をしたんだ」  寒さに震える玲は、隣にいるゴリラの足とは比べ物にならないほど小さい右足を差し出し、足首を指で示した。安藤は乱暴にズボンをまくりあげ靴下を下ろした。車の灯りに照らされた足首はあまりに小さく、腫れの大きさが安藤には判断つきかねたので、左足首も同様に露わにして見比べた。 「痛い、痛い、やめてよ」
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