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いくら抱いても温かくならない容器を元の場所に戻してから、私は冷え切った手で、乱暴に涙を拭った。
本当は今すぐにでも、この小さく冷たい棺から我が子の一部を解放し、荼毘に付してやりたい。
けれど私とアン、それにゼロの復讐は、氷室 菜摘一人を殺した程度では、終わらない。
終わってはいけない。
(ごめんね、紫苑……もう少しだけ辛抱して。
必ずそこから出して、天に還してあげるから。
その時は、私も────)
心の中で語りかけながら、私は重く冷たい銀色の扉を、そっと閉じた。
氷室 菜摘の訃報が私の元に届いたのは、下弦の月がやっと空に昇った頃だった。
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