猫の獲物

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 足音はまるでしない。その代わりに、何かが引きずられる音が響いてきた。  猫が狩りから戻って来た。音からして獲物はかなり大型だ。  姿を見たら、すぐさま『もうやめろ』と叱ってやろう。あるいは逆に『よく頑張った。もうこれで充分だ』とねぎらった方が、あのお猫様は満足してくれるだろうか。  どちらの対応をするべきか。迷っている間に猫が玄関先へ現れる。そいつが銜えて引きずってきた獲物を見た瞬間、俺は総ての言葉を失った。 「にゃあ!」  俺の姿を見た猫が、誇らしげに一声鳴いた。それと同時に姿が薄れ、掻き消える。  成仏したのか? それとも単にこの場から消えただけ? どっちであっもて、今はそれを考えている場合じゃない。  玄関に置かれた今夜の獲物。あいつが狩ってきたばかりの、まだ死後間もない人間の遺体。  警察を呼ぶべきか。でも、どう説明すればいいんだろう。  ただそれだけを、俺は玄関先に立ち尽くしたまま考えていた。  そんな俺の耳に、どこかで、あの誇らしげなにゃあという声が聞こえた気がした。 猫の獲物…完
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