第1章

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  2.  彼の放ったあの単純な言葉がわたしには特別なもののように思えた。  今までは彼がいつ来るのかという確約はなく、「ああいつもいる彼だ」というこちらからの一方通行の認識だった。  矢印がこっちにも向いていることに気付いた。  たとえそれがわたしを知っている、という、関係性の中では最もどうでもいい「知人」レベルのものだったとしても。  わたしの次の当番は二日後だ。  彼はわたしの当番が連日続く場合も、間隔があく場合も、変わることなくいつも本を借りに来る。  彼がわたしのいない日に図書室に来ていないことは、わたしが誰よりも知っていた。だって、必ず、わたしが貸し出し処理をした本を次の担当の日に持ってくるのだから。  しかし、次の当番の日、初めていつもと違うことが起こった。  彼はいつも通り図書室に来て、いつものように本の貸し出しを行なった。  ただし、一人ではなかった。
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