第1章

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 一人で来て、一人で本を読んで、一人で帰っていく。  その当たり前の毎日に、今日は同行者がいた。ああ、なんてベタな展開なんだろう。  わたしはそこまで顔の広い方ではないし、学年全員を知っているわけではない。だから一緒に来た彼女がどこのクラスの何という人なのかは知らない。  残念ながらその彼女が本を借りることもなかったため、その情報を得ることすらもできなかった。  ただの図書委員のわたしが、「お友達ですか」などと図々しく聞けるはずもなかった。  「こんにちは。本お預かりします。・・・貸し出し期間は2週間です。どうぞ。」  わたしはアンドロイドにはなれなかったらしい。  全く同じセリフだけれども、いつもより早口な事に気づいた。彼の目を見ることなく、本を手渡す。彼だって、わたしと親しい友人なわけではないからそれ以上は何もしないし、言わない。  そう、これが日常だ。  ちょっと話したことがあるくらいで勘違いしてはいけない。そうだ、勘違いする前でよかった。  わたしたちは、図書委員と一利用者なのだ。
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