第1章

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 いつもは図書館の奥の窓際に座る彼だが、今日は空いていた窓から下をのぞき込んでいる。  なんとなく彼を目で追っていたわたしは、こちらを振り向いた彼と目があった。  その時すぐに目をそらせばよかったのだが、逆光に照らされる彼が美しくて、魅入ってしまっていた。今更ながら、バツが悪くなって下を向く。  小さく「おいで」と呼ぶ声が聞こえた。  パッと顔をあげ、「でも・・・」それだけつぶやき、カウンターから離れるわけにはいかない、そう伝えたくて首を横に振る。 「大丈夫、今日、誰も来てないよ。」  誰も来てない、といいながら遠慮がちにささやいて、わたしに手招きする。
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