第1章

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 普段だったら絶対にそんなことしないのに、この日のわたしは彼に吸い込まれるようにカウンターを出て歩き出した。  彼の横に立って窓際までくると、先ほどの風とは比べ物にならないくらい、驚くほど甘く、強い香りがわたしを包んだ。  図書室があるのは二階で、大きく育った金木犀の木のてっぺんがすぐ目の前に見える。 「すごく、いい匂い・・・」 「キンモクセイの花言葉はいろいろあってね、この甘い匂いから、“陶酔”って意味があるんだ。」 「陶酔・・・」 「陶酔、そんな感じだよね。」  ニコッと微笑む彼と目が合い、慌てて視線をキンモクセイへと向ける。
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