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完璧な男の中身
「終わったぁ…」
放課後の教室は部活に向かう人達が、バタバタと支度を始めている。私はカバンに教科書を詰め、帰る準備の最中だ。
「ねぇ、今日も見に行かない?」
友達の香織は好奇心旺盛で、イケメンには目がない。容姿は大人びているが、中身もオバサン化してるのが少し残念。可愛く編み込んだ纏め髪が、女子力を何とか保たせている。
「私はパス。イケメンの冷酷王子でしょ?見物人も沢山いるし面倒臭いもん」
私は腰まで髪を伸ばしていたが、香織の真似がしたくて最近肩までバッサリ切った。でも、纏め髪には成功しておらず、アイロンでフンワリとカールをつけるのがやっとだ。
「でも、あんな人そうそういないよ?芸能界にデビューするかもしれないじゃん!だったら、今のうちにサイン貰っといたら価値あがるかもしれないし」
『考え方が乙女じゃないね…ちゃっかりし過ぎてる』
でも、そんなサバサバした性格は私には合っていて、いつもバカ話をして楽しむ一番の友達だ。私も影響を受け、オバサンになっているのかもしれない。
「今日は早く家に帰って、クローゼット用のサシェ作りたいんだけど…」
実家はハーブのお店を開いており、オリジナルのキャンディやスパイス、フレグランス等を販売している。一人っ子の私はたまにお店に出て手伝いをしている。なので、女子力が低いという訳ではないが、興味を持つアンテナが少し他の子とはズレていた。
「そんなのいつでもできるじゃん!目の保養してから帰ろうよ」
「はい、はい。分かりました」
香織に連れて行かれたのはテニスコート。今日の王子はテニス部の助っ人で参加しているらしい。境界線のように張ってあるネット一面、女子の見物人で埋め尽くされていた。
「今日は遅かったみたいだね…諦めて明日にしますか?」
「見なくていいの?」
「あれじゃ、サインすら貰えない…」
目的が不純なので、暑い中待つ気はないみたいだ。ちょっとウケながら、来た道を戻り始めたその直後
「キャーーっ!!」
と悲鳴に似た声が聞こえたが、多分スマッシュでも決めたんでしょ?と振り向きもしなかった。前を歩いていた香織の頭に、何かが勢いよく当たり
ボコッ!!という鈍い音がした。
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