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「うぐぐ……痛い!!」
と跪いたのを見て
「香織!?大丈夫!?」
ようやくヤバイという事に気がついた。
「サインは貰えなかったけど、代わりにボール貰えたみたい」
「もぅ…!本気で心配したのに!」
香織の身体をゆっくり起こすと
「サインなんてできないよ、俺」
緑がかったヘーゼル色の綺麗な瞳でこちらを見据えている男子。背も高く、細長い手足に整った指先。前髪が少し目に被っている薄茶色の髪は、サラサラと風になびいていた。ジャージを着ていても、どの角度からも見た目は完璧。
「え?まだないの?今後の為に練習しておけばいいのに!」
香織はボールを当てられたという事もスッカリ忘れ、チャンスだと言わんばかりに話しかけている。私は『謝りもしないんだ!』と常識のなさにイラッしていた。
「ねぇ、ついでだから背中見せてくんない?」
「背中?いいけど?」
クルッと振り向くとブラウスのボタンを途中まで外し『どう?』と言わんばかりに見せようとしたが、数秒で
「あ、もういいわ」
とコートに戻ってしまった。
「何……あれ!?謝りもせず失礼な奴!」
「どうやら王子は、私の背中がお気に召さなかったみたい」
「そっち!?もう少し怒ったら?…ここ外だよ!」
「小さい事は気にしない!さぁ、帰ろ!」
香織は王子様と話が出来て、すっかり気分をよくしている。私は彼の瞳が何となく気になっていた。何処かで見た気がする…
途中コンビニに寄って、レモンソーダとジャスミンティを購入。いつものようにおバカな話で盛り上がる。まだ話したいな…とエンジンがかかる頃に、私の家の白い壁が見えてきた。
「じゃあまた、月曜日!」
「うん!お笑いのライブ楽しんできてね!」
大きく手を振ってくれる香織に、笑顔で答えて別れた。家は1階が店舗、2階が住居になっていて、お店は通らず裏に玄関から出入りしている。ドアを開けるといつものようにハーブの香りが漂ってきた。
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