私の王子は光る君

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 けたたましい警報音と小刻みに揺れる船内に、ようやく恐怖が実感される。ダメかもしれないという考えが脳裏をよぎると、全身が強ばった。  宇宙時代なんて言われるようになって半世紀。宇宙時代といっても、地球から一歩踏み出したような場所にあるアイランドと呼ばれる居住用宇宙ステーションが主で、月や火星なんていうのはまだまだ開発途中、その先の宇宙はいまだ夢物語。  そんな時代に生まれたニィナは、船内前方側の席の隅で丸まっていた。地球発、第21アイランド行きのシャトル。初めて地球へ行った帰りだった。  ニィナは、今では珍しくなくなった宇宙生まれの宇宙育ち。だからか、画面越しでしか見たことのない地球にずっと憧れていた。高い空、頬に触れる風、空調の匂いのしない空気。何もかもが新鮮だった。アイランドを選んだ両親を恨みはしないが、いつか地球で暮らしたいとさえ思った。そんな帰りだった。  シャトルの不調。船長のアナウンスで近くのアイランドへ不時着すると言っていたが、その直後船体が不気味に震え始めた。「大丈夫か?」と乗客がざわつき始めた時だった、警報音が鳴り響いたのは。  悲鳴をあげる者、我先にと脱出用ポットに駆け出す者、冷静に各座席に取り付けられた船外服を取り出す者。乗客達の行動は様々だが、ニィナはどれにも当てはまらなかった。頭の中がパニックになり、恐怖に支配された体が動かない。もうダメだ、ここで死んでしまうのだと、絶望的な気持ちだった。  その時だった、その声が響いたのは。 「民間宙安会社ライト・スターです!救助にまいりました!」  そのよく響く声に、うずくまっていたニィナは顔をあげた。  船外服姿の彼は、震えていたニィナの元へ真っ先に来てくれた。「大丈夫だよ」と優しく声をかけてくれた彼の笑顔に、ニィナは一瞬で恋に落ちた。
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