「破綻を買うまで」

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ウチの会社が取り扱う教材は、そこらの教材よりも優秀……なのだそうだ。おそらくそれは事実だと思う。顧客の満足度も高い。 訪問販売特有の商品への警戒も、嘘偽りなく商品の内容をじっくりと教えてやれば徐々に薄れていく。そんな顧客の様子もよく見てきた。 だから、この仕事はやりがいがある部類だろう。 けれども、俺はこんな上等なモンを使って勉強してきたわけではないし、この上等なモンが俺がガキの頃にあったとして、俺が勉強をしてきただろうかと考えると、甚だ疑問だから、俺自身がこの教材に懐疑的なのである。 「顧客満足度ってもなぁ、親の満足度だしなぁ」 こいつを使うであろうガキの満足度は推し量れない。そこも俺にとっては、気持ちの悪いところなのだ。 「……まぁ、ガキのことなんざ知ったこっちゃねぇか。精々俺の飯の種になってくれってんだ」 勉強は身を助けてくれるそうだし、ガキにとっても悪いことじゃないだろうしな。 等と、ここ数日でもう十数回は繰り返した問答に、自分を納得させる答えを区切りとして、今日も転職したいと嘯きながら俺は働くのだ。
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