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「いえ、あの、お構い無く。今日はちょっと聞きたいことがあっただけなので……」
「聞きたいこと?」
「あ、はい、あの……」
優くんのことを切り出そうとして、私はチラリと教室内に目を走らせる。
生徒は誰もいないみたいだけど、今日はお休みなのかな?
私の考えが伝わったのか、先生は少し寂しそうに笑った。
「今日まで教室はお休みにしてもらってるの。甥っ子が最近亡くなってね。お葬式が昨日だったんだけど、ちょっとバタバタしてたから……」
「────え……」
「リンちゃん覚えてないかしら。ここに通っていた、国立 優って男の子」
ドクン、と心臓が大きく跳ね上がった。
真横に立っていた折坂くんも、ゴクリと息を飲む。
ちょっと…。待って。
今先生、なんて言ったの?
「き、昨日…が、お葬式だったんですか?」
「ええ、そうよ。三日前に亡くなったの」
(三日前……!?)
知らず知らず、体が震え出す。
三日前と言えば、綾城祭があった日だ。
それじゃあ……それじゃあ優くんは、その日まで生きてたって、こと…!?
思ってもみなかった事実を聞かされ激しく動揺する私に気付かず、先生はピアノを見つめながら微かに瞳を潤ませた。
「小6の時に事故に遭ってね。それからずっと意識も戻らず寝たきりだったんだけど……。1週間ほど前に容態が急変したらしいの」
「……………」
「今まで全く動かなかったのに、指が動いたり、瞼が動いたりしてね。涙を流すこともあったらしいわ。意識が戻る前兆じゃないかって言ってたんだけど、結局一度も意識が戻らないまま、三日前に……」
そこで言葉を詰まらせ、先生は口元を押さえて涙を溢れさせた。
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