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「ここ、だね」
メモの住所に書かれた家の前に立ち、私と折坂くんは同時に大きな建物を見上げた。
国立と表札のかかったその家は、気後れするほど立派な豪邸だった。
勢いでここまで来たものの、格式高い雰囲気に躊躇を覚える。
それに、昨日お葬式で、きっとまだ落ち着かないよね……。
その時ちょうど、玄関から人が現れた。
弔問客が来ていたらしく、私服だったけれど手には数珠が握られている。
その後に一人の女性が続いて出てきた。
私と折坂くんはとっさに門から一歩離れた。
「今日はわざわざありがとうございました」
「いえ。……ではこれで失礼します」
弔問客とその女性が、門の前で丁寧にお辞儀をしあう。
弔問客を見送ったあと、その女性がふと私達に気がついた。
面やつれしていたけど、それは5年前の記憶にある優くんのお母さんに間違いなかった。
お母さんは少し記憶を探るように、じっと私の顔を見つめてきた。
「優の、お友達だったかしら?」
そう言って小首を傾げる。
私は慌てて深く頭を下げた。
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